訪日インバウンドは過去最高。その先の「リピート購入」の導線が、ない。
外国人観光客は過去最高の規模で訪れ、高い満足を抱いて帰国し、日本の商品をまた買いたいと言う。しかし、その確かな需要のほとんどは、帰国した瞬間に取りこぼされている。本スタディは、このギャップを端から端まで公開データで追い、それを埋める導線を——広告を一円も使う前に——設計できるところまで、顧客像を描き出す。
HGGC · 出典:日本政府観光局(JNTO)・出入国在留管理庁 · 公開データ 1964〜2025年
ブーム
回復ではなく、構造的な変化
2025年の訪日数は4,268万人を突破し、過去最高を更新した。コロナ前のピークを大きく上回り、1964年の約120倍にあたる。アプローチできる海外の母集団は、恒常的に大きくなった。
JNTO 訪日外客数、1964〜2025年(暦年)。2026年は年初来のため除外。
数量は東アジア、高付加価値の層は英語圏
韓国・台湾・中国・香港で訪日数の約68.8%を占める。一方、海外ECや配送が最もやりやすい英語圏の主要4市場は合わせて約11.9%——海外リピート購入に最もアプローチしやすい層だ。
- 韓国2.3M
- 台湾1.4M
- 中国0.8M
- 香港0.4M
- 米国0.4M
- オーストラリア0.2M
- その他0.2M
- タイ0.2M
- フィリピン0.2M
- マレーシア0.1M
- インドネシア0.1M
- ベトナム0.1M
- シンガポール0.1M
- カナダ0.1M
- 英国0.1M
- フランス0.1M
- ドイツ0.0M
- インド0.0M
- メキシコ0.0M
- 中東0.0M
- 北欧0.0M
- イタリア0.0M
- スペイン0.0M
- ロシア0.0M
JNTO 訪日外客数 市場別(23市場)、2026年 年初来。
彼らはビジネスではなく、日本を体験しに来る
米国・英国を含むどの主要市場でも、訪日のおよそ9割はビジネスではなく観光目的だ。これは自らの意思で日本を体験し、買い物を楽しみに来るレジャー層である。
- 香港98%
- 台湾97.1%
- 韓国96%
- 米国94.3%
- 英国90.3%
- 中国88%
JNTO 訪日外客数 目的別、2025年。観光の割合(ビジネス+観光+その他に占める比率)。
財布の中身
買物は最も伸びた費目——そして唯一、また買ってもらえる費目
2019年以降、すべての費目が伸びたが、なかでも買物の伸びが最も大きい——旅行支出のおよそ8分の1から、5分の1近くへ。宿泊・飲食・交通は旅行中に消費され、空港で終わる。買物——化粧品、菓子、茶、工芸品——は、ブランドが帰国後に海外からもう一度売れる唯一の費目だ。
- 宿泊43.4%
- 飲食20.5%
- 買物19.8%
- 交通11.8%
- 娯楽サービス4.4%
JNTO 訪日外国人消費動向調査、費目別の旅行支出に占める割合、2019年対2025年、全訪日客。1人あたり金額は指数的な調査値のため、構成比で表示。観光庁の国民経済計算ベースの総額とは別物であり、両者を混在させていない。
使い切る商品ほど、1人あたりの支出が増えている
菓子類の購入者単価はこの期間で約39%上昇し、化粧品はさらに高い水準にある。これらには自然な再購入サイクルがある——箱を食べ切り、瓶を使い切る——にもかかわらず、ブランドが応えられるのは旅行中のその一度きりだ。
JNTO 訪日外国人消費動向調査、品目別の購入者単価(円)、韓国——成熟した高頻度市場の例。2020〜2022年の調査空白は補間。
ロイヤルティと、その漏れ
日本はすでにリピーターを生み出している
初訪日は全体の約3分の1にすぎず、64.9%は訪日経験者だ——5回、10回、20回という人も少なくない。ロイヤルティはすでに存在する。ただそれは、商品の再注文ではなく、もう一度日本へ飛ぶという形で表れている。
- 1回目35.1%
- 2回目14.2%
- 3回目11.6%
- 4回目7.5%
- 5回目7%
- 6〜9回9.6%
- 10〜19回9.2%
- 20回以上5.8%
JNTO 訪日旅行の実態、訪日回数、全訪日客、2025年。
満足度も再訪意向も、年々高まっている
全訪日客でみると、この15年で満足度は97.4%、再訪意向は97.1%に達した——いずれも過去最高で、なお上昇している。体験への、そしてその中にある商品への好意は、かつてなく高い。
JNTO 訪日満足度、トップ2ボックス(%)、全訪日客、2011〜2025年。
漏れ
各指標はJNTOの別々の設問によるため、これは単一のファネルではなく需要の「ラダー(はしご)」だ。それでも形ははっきりしている——最後の段を除いてどの段も強く、その最後で、海外リピート購入の導線がほぼゼロまで崩れ落ちる。
- 訪日4,268万
記録的な数の人がブランドに出会う
- 満足97.4%
体験が刺さる(全市場で)
- 再訪したい97.1%
表明されたロイヤルティはほぼ普遍的
- 実際に再訪64.9%
3分の2が訪日経験者
- 帰国後に再購入~0%
多くのブランドに海外向け導線がない
図01〜07の指標を組み合わせたもの。最後の段は、HGGCがブランドごとに定量化し、埋めていく構造的ギャップ。
顧客像
ニッチではなく、ボリュームゾーンの大人
米国・英国・カナダ・オーストラリアの2024年の入国者471万人は、成人層全体に広がり、男女比もほぼ半々だ。中心は25〜44歳だが、その上下も厚い——東アジアの訪日層より幅広い。
出入国在留管理庁、年齢・性別別入国者数、2024年。英語圏市場の合計。
多くは、買ってあげたい相手と一緒に
家族・パートナー・友人が大半を占め、4分の1がひとり旅だ。買い物には贈り物や家庭内シェアの側面が確かにある——彼らは、再注文してあげたい相手とともに商品に出会っている。
- 家族31.4%
- ひとり23.1%
- 友人21.1%
- 配偶者・パートナー18.9%
- 同僚4.4%
- その他1.1%
JNTO 訪日旅行の実態、同行者(選択率%)、全訪日客、最新年。複数回答。
圧倒的に個人手配
87.2%が団体ツアーではなく自分で旅行を手配している。決められた行程に連れられるのではなく、棚の前で自分の意思で選ぶ消費者だ。
- 個人手配87.2%
- 団体ツアー9.6%
- 個人向けパッケージ3.2%
JNTO 訪日旅行の実態、旅行手配の形態(訪日客に占める%)、全訪日客、最新年。
習慣がつくには十分な長さ
大半は4〜13日滞在する——商品に出会い、毎日使い、帰国後に恋しくなるには十分な時間だ。旅行はいわば無料トライアルなのに、ブランドはそのフォローを一切していない。
- 3日以内7.9%
- 4〜6日43.2%
- 7〜13日33.7%
- 14〜20日9.6%
- 21〜27日2.3%
- 28〜90日2.2%
- 91日以上1%
JNTO 訪日旅行の実態、滞在日数(訪日客に占める%)、全訪日客、最新年。
発見と行動
商品との出会いは、リアルな棚で起きる
コンビニ、百貨店、ドラッグストア、空港免税店——外国人客がチョコレートやスキンケア、お茶を初めて手に取る場所だ。そのどれも、帰国先から届くオンラインの受け皿を持たない。
- コンビニ85.3%
- 百貨店59.4%
- ドラッグストア59.2%
- 空港免税店55.3%
- スーパー50.4%
- 土産店36.2%
- ディスカウント店27%
- ファッション専門店26.7%
JNTO 訪日外国人消費動向調査、購入場所(購入者に占める%)、全訪日客、2025年。複数回答。
しかし計画は、はじめからデジタルだった
同じ訪日客が、公式の観光サイトよりもはるかに多く、SNSや動画、個人ブログで旅行を調べている。この層にはデジタルで届く——ただ、ブランドが旅行後にそのチャネルにいないだけだ。
- SNS43.3%
- 動画サイト(YouTube等)39.6%
- 個人ブログ23.9%
- JNTO公式サイト12.2%
- 宿泊施設サイト11.1%
- 口コミサイト11%
- 予約サイト10.5%
- 航空会社サイト8.8%
JNTO 訪日旅行の実態、利用した情報源(選択率%)、全訪日客、最新年。複数回答。
最も望まれているのは、消費を続けること
次の訪日でしたいことを尋ねると、日本食を食べる(70.7%)と買物(54.2%)が上位に並び——景観や文化を上回る。消費を続けたいという意思は明確だ。欠けているのは、その手段だけである。
- 日本食を食べる70.7%
- 買物54.2%
- 自然・景観観光52%
- 温泉入浴51.4%
- 繁華街の街歩き37.6%
- 旅館に宿泊33.5%
- 日本のお酒を飲む31.8%
- 四季の体感30.7%
JNTO 訪日旅行の実態、今回した活動と次回したい活動(選択率%)、2025年。複数回答。
キャッシュレス、そしてECへの素地がある
今も現金が首位だが、すでに4人に3人がカードで支払い、交通系ICやモバイル決済も定着した。海外から日本のブランドに支払う際の摩擦は、行動上の壁ではなく、解ける課題だ。
- 現金92.3%
- クレジットカード75%
- 交通系IC(Suica等)36.2%
- モバイル決済20.9%
- デビットカード6.6%
- 電子マネー(Edy等)0.4%
JNTO 訪日外国人消費動向調査、利用した決済手段(訪日客に占める%)、全訪日客、2025年。複数回答。
どこで・いつ
少数のゲートウェイが流れの大半を担う
成田・関西・羽田が入国の大半を占める。これらのゲートウェイとその周辺でのサンプリングは、全訪日客の大きな割合に届く——だがこれも、彼らが国内にいる間だけだ。
- 成田10.9M
- 関西9.5M
- 羽田6.3M
- 福岡3.4M
- 新千歳1.7M
- 中部1.5M
- 那覇1.4M
- 仙台0.2M
出入国在留管理庁、港別の外国人入国者数、2024年。
注目は一極集中——地方ブランドの課題
全訪日客の半数が東京を訪れ、大阪・京都・成田の回廊がそれに続く。このゴールデンルートを外れると訪問率は急速に下がる——訪問の少ない県の優れたブランドは、国内ではほとんど見つけてもらえない。
- 東京50.8%
- 大阪41.3%
- 千葉35.1%
- 京都29.7%
- 福岡11%
- 神奈川9.3%
- 奈良9%
- 山梨8.1%
- 北海道7.3%
- 愛知6.9%
JNTO 都道府県別訪問者数、各県を訪れた訪日客の割合。複数計上。
ほぼ通年、そして贈答のピーク
月別の入国者数は驚くほど平準で、冬の底の約270万人から12月の約340万人まで、秋にも第2のピークがある。閑散期がない——そして12月と秋は、自然な贈答のタイミングだ。
出入国在留管理庁、月別の総入国者数、2024年(全国籍)。
顧客像は、すでに描けている。あとは、データが示す場所で導線が彼らを迎えるだけだ。
海外リピート購入の導線に必要な要素——誰が、どこで、どのチャネルで、どの季節に、どの商品を——は、広告を一円も使う前に観測できる。本スタディは公開の全市場データを用いている。HGGCは、これをブランド別・市場別に落とし込み、貴社のギャップを定量化し、それを埋める実装まで行う。
手法と出典
数値はすべて公開データ(JNTO・出入国在留管理庁、2026年取得)。訪日数は2025年までの暦年。満足度・再訪意向・購入場所・決済手段はいずれも全訪日客(Overall)の数値。唯一の例外が図05の品目別購入者単価で、これは現行エクスポートで入手できた品目別系列として、成熟した高頻度市場である韓国の値を示している。
行動系の項目(活動・情報源・同行者・購入場所・決済)は複数回答のため、合計は100%を超える。財布の内訳(図04)は、JNTOの調査系列における各費目の旅行支出に占める構成比で示している——観光庁の国民経済計算ベースの総額とは別物であり、両者を混在させていない。元データはご請求に応じて開示する。
